シード最大規模60億円の資金調達、その裏側
2024年5月14日、チューリングでは「シード最大規模30億円の資金調達、その裏側について」と題して、2022年7月のシードラウンド、さらに2023年4月のプレシリーズAラウンド(前半)でリード投資家を務めていただいた、独立系ベンチャーキャピタルANRI代表パートナーの佐俣アンリさんを迎え、当社CEO山本一成との対談を行いました(ファシリテーター:COO田中大介)。
「VC業界の有名な方に片っ端から声をかけていた、その一人がアンリさんだった」と語る山本。その山本への第一印象を「不思議な発言を繰り返す人だな」と明かす佐俣さん。そんな2人の出会いから、佐俣さんがスタートアップ投資で大切にしている視点、チューリングへの投資に至った経緯と決め手、さらにこれからのチューリングに期待することなどをざっくばらんに語っていただきました。
スタートアップへの投資を判断する「両極端」の視点

田中:「投資家」と聞くと、一般の方にとっては少し遠い存在というか、何をやっているのかよくわからないところがあると思います。まずは自己紹介を兼ねて、アンリさんやANRIという会社が何をしているのかをお聞かせいただけますか。
佐俣:僕が代表を務めるANRIは、2012年に創業したベンチャーキャピタル(VC)です。現在は総額で約300億円の投資を行っていて、投資規模としては独立型VCの中ではトップ10に入るくらいですね。
これまで投資してきたスタートアップは約260社で、皆さんが知っている企業でいうと、YouTuber 向けマネジメントプロダクションの UUUM 、電動キックボードの LUUP、ネット印刷サービスのラクスルなど。自動車関係でいうと SmartDriveという自動運転のセンサーなどを開発するスタートアップにも投資しています。最初に投資したのが4億円のファンドで、今は100億円くらいになっている。
僕たちが一貫して投資対象としているのはシード期(創業期)のスタートアップ。まだ事業がものになるかどうか不確実性が高い段階だから、少し“いい加減”に投資しています。
田中:“いい加減”に(笑)?
佐俣:もう少し丁寧に言うと、例えば大企業に投資する場合はパワーポイントでいえば50枚くらいのスライドを作成するところですが、シード期のスタートアップの場合はそもそも書ける情報が3枚分くらいしかない。いったい何を信じればいいのか、という段階から投資するのですが、それが割と得意なVCです。
田中:本当に何もないところで投資の意思決定をするわけですよね。何を見て判断しているんですか?
佐俣:2つあって、「ものすごいマクロ」と「ものすごいミクロ」の両極端をそれぞれ見て、サンドイッチするイメージです。
SmartDriveの例でいうと、モビリティの市場はよくわからないけど、ニーズがあることは確かで、世界中でもモビリティ革命が起こっている。それなのに日本の中にプラットフォーマーが存在しないのはおかしい。実現するかどうかはともかく、「べき論」でいうと日本独自のプラットフォームがあるべきだ、と考えます。これが「ものすごいマクロ」。
一方の「ものすごいミクロ」は、経営者自身やチームです。LUUPの場合、当時の創業者はほぼ学生に近い若者だったけど、かなりの野心家で、それでいて社会のルールも遵守しようという姿勢がうかがえて「信用できる人たちだな」と思えた。そのように、すごく引きで見た視点と、個人やチームにフォーカスした視点の両極端を見ていて、やろうとしている事業の細かいところは、実はあまり見ていない。
田中:アンリさんの投資家としての視点は、これから起業したいと考えている人にとっても大事な指標になりえますか?
佐俣:「ものすごいマクロ」の視点は大事だと思いますね。いわゆるユニコーンといわれるスタートアップは、実はたまたま伸びる市場にいてアップストリームを受けたことが成長の大きな要因なんです。だから、自分を一つの「コマ」としてメタで見ながら、自分という才能をどこに配置すべきかと考えることは、起業家にとって大事なゲームだと思っています。
プログラマー×研究者という「クセのある合体」
田中:2022年7月、チューリングはANRIなどから10億円の資金調達をさせていただきました。シードラウンドで10億円というのは異例ともいえる金額だと思いますが、何が投資の決め手になったのでしょうか?

佐俣:その話の前に、実は僕、VCの立場から青木(俊介:取締役CTO)さんをずっと追いかけていたんですよ。
田中:えっ! それは初耳です。
佐俣:青木さんは自動運転や移動ロボットなどの分野で、早くに海外に渡ってソリッドな研究を続けてきた人物です。彼の論文などは常にチェックしながら「いつか起業を勧めたいリスト」に入れていたんです。一方で、山本さんとも時々会って話を聞く機会があって。
山本:初めてアンリさんに会ったのは、前職のHEROZにいた頃です。その頃の僕は上場して、将棋のAIを開発して名人を倒して、正直に言うと人生が余っていた。で、「何をやるかは決めていないけどおそらく起業するんだろうな」と漠然と思っていて、VC業界の有名な方をネットで見つけては片っ端から声をかけていました。
その一人がアンリさんで。不躾にメッセージを送ったにもかかわらず「来なよ」と気さくに返事をくださって。アンリさんのオフィスで30分くらい話をしましたね。覚えてます?
佐俣:覚えてる、覚えてる。その時の山本さんの印象は「なんだか、不思議な発言を繰り返す人だな」と(笑)。
そのように青木さんと山本さんの2人をそれぞれ別の文脈で追っていたところ、その2人がたまたま合流したのがチューリングだった。プログラマーと研究者という、RPGでいうところの「MP」がものすごく高い2人が組んだと聞いて「ものすごくクセのある合体をしたぞ」と思いましたね(笑)。そのタイミングで改めて山本さんから出資の相談を頂いたのがスタートです。
「トヨタができない戦い方」をやるプレーヤーがいてもいい

田中:経営者っぽい人がいない組み合わせは、確かに珍しいですよね。
佐俣:でも、先にSmartDriveに投資していたこともあって、もともと自動運転は大きなテーマとして関心を持っていました。
投資の軸として、僕たちは「この国がどうすればこの先も安定的に発展できるだろうか?」という未来をものすごく考えます。その視点で日本の産業構造を眺めると、自動車と自動車関連製品(部品含む)が全製造業の約2割を占めていて、中でもトヨタの今期(2024年3月期)の純利益が約5兆円。この国をマクロで見れば見るほど、トヨタという1社に産業全体を支えられている国だとわかる。
田中:確かに……。
佐俣:そのことがわかったうえで、今度は「もしトヨタという会社がなくなったら」というモメンタムを考えます。すると、日本の産業の根幹を占めているトヨタがこの先20~30年の間に沈没するモメンタムは「EV」と「自動運転」の2つしかないんです。
投資家から見ても、トヨタが沈没するモメンタムは強烈だった。もちろんトヨタには頑張ってもらいたいけど、そこは経産省をはじめ国が応援するゲーム。「トヨタができない戦い方」を一直線でやるゲームに挑戦するプレーヤーがいてもいいよね、というのは漠然と思っていました。
田中:そのタイミングで、日ごろウォッチしていた山本さんと青木さんが目の前に現れた、と。
佐俣:そうなんです。今でも印象的なのが、山本さんが「僕たちくらい、それぞれの世界で実績を残している人間が、人生かけて挑戦するのがちょうどいいんじゃないですかね」と言ったんですよ。その言葉にすごく納得感があって。この国がもっと発展していくストーリーの何本かの文脈の中に、こういう挑戦があっていいはずだ、と強く思えたんです。
田中:先ほどお話しした「ものすごくマクロ」の視点ですね。山本さん自身は、このときの状況を覚えていますか?
山本:もちろん覚えています。その頃のチューリングは、まだインターンを含めて5、6人の時期。私有地のテストコースにアンリさんたちANRIの方々を招いて、自動運転の走行実験をしましたね。
佐俣:テストコースを、Webカメラ1台と、200行くらいのコードというすごくシンプルなルールで走るんですよ。すごく危なっかしくて、たまにカクンって動きをする(笑)。
でも、1周、2周とするうちにだんだん慣れてきて、気づいたらほぼハンドルに触れずに社内で喋っている自分がいましたね。
「We Overtake Tesla」というチューリングのビジョンで言えば、進捗率はたかだか0.001パーセントほどですよ。でも、直感的に「なんかいけるかもしれない」と思った。

田中:なるほど。
佐俣:どう考えても自動車産業って、この国の中でいちばん大事な根幹産業なんですよ。成長産業ではなくて根幹産業。その根幹産業のメインストリームが崩れた場合に、そのバックアッププランのストーリーがあれば、日本はもう一度自動車を根幹産業に戻せる。なのに、それを誰もやってないというヤバさが意外と認知されていない。そこに危機感を感じて、それなら僕たちとしても山本さんたちを全力で応援しようと。
スタートアップである以上、絶対に成功するという保証はない。でも、この勝負は僕らとしても全力で投資をする価値がある。そう思えたんです。
トップはたまにブレイクスルーのきっかけを起こせばよい
田中:改めてお話を伺うと、アンリさんの投資哲学と、日本のマクロの経済環境、とりわけ自動車産業への危機感があって、そこに以前からたまたま目を付けていた青木と山本から相談があった。いろんな要因が重なってシードラウンドでの10億円の出資につながったのですね。
この約2年の間、チューリングの歩みをどうご覧になっていましたか?
佐俣:僕は、これまで投資してきたスタートアップ260社の、260とおりの「旅」を間近で見ています。その中でもチューリングという会社の「旅」はトップレベルで“むちゃくちゃ”で。
山本:“むちゃくちゃ”? この会社の話、ですよね(笑)?
佐俣:僕の中で「これはむちゃだぞランキング」みたいなものがあって、核融合発電所を作る会社、人間の皮膚のタンパクから卵子を作る会社、そしてチューリング。これがトップ3。

田中:豪華なラインナップですね(笑)。
佐俣:いわば「歴史年表に足跡を刻む」ことに挑むタイプ。こういうのは基本的に“むちゃくちゃ”なんですよ。
それでも、チューリングはこの2年の間に田中さんもジョインしてくれて、もともと「ドリーマー×ドリーマー」だった経営陣のバランスがよくなった。技術的にもチーム的にも成長している。「We Overtake Tesla」という山頂に向かう中で、だんだん雲が晴れてきて、登る山がどれくらいの高さでどれくらい険しいのかが見えてきたんじゃないかな。
田中:経営者としての山本を創業時から見ていて、変化などは感じていますか? あるいはよくも悪くも変わらないのか……。
佐俣:より「経営者」になってきたし、今のチームの中での「山本一成」という人間への期待値もだいぶわかってきたんじゃないかと思って見ています。
この2年の間に、ブレイクスルーのきっかけとなる話を山本さんたびたび持ち込むんだけど、大半はまったく箸にも棒にもかからないものばかり(笑)。でも、実は振り返ってみると「あのときのブレイクスルーのきっかけは山本さんが引っ張ってきたよね」ということが多い。会社にとって大事なブレイクスルーのきっかけを何回か起こすのがCEOである山本さんの役割であり、期待値です。
そのためにずっと物を考え続けてくれればいいし、見当違いなことを言っても、それは周りの誰かが却下すればいい。でも、山本さんは意外と自身をメタ認知できていて、「山本一成ロボ」をうまくコントロールできている気がしますよ。
山本:いや、どうなんだろう……ただただ「経営者ってすごいんだな」「あの人みたいにはなれないな」と感心することばかりで。自分はスーパーマンじゃないし、とりあえず素直に生きようとは思っています。
佐俣:いや、それでいいんですよ。僕も多くのスタートアップを見ているけど、プレイヤーとして優秀で一人で走り切れる人は、たいがいメンバーに任せるのが苦手だったりするので。
チューリングが成し遂げようとしている完全自動運転は、ものすごいブレイクスルーを30個くらい奇跡的に積み上げてやっと届くくらいのゲーム。こういったゲームの戦い方においては、山本さんはCEOにとても向いていると思います。投資する側としても安心して見ていられますよ。
EVへの期待値は下がっているけど…

佐俣:ところで「ハイプ・サイクル」って聞いたことがありますか? 新しいテクノロジーに対する世の中の期待度の変化を表したもので、無視されるところからだんだん期待度が上がり、期待過剰になってからいったん大きく停滞する「幻滅期」に入る。そこからしばらく経つと「安定期」に入り、本当の産業運用が始まる、というサイクルですね。
自動運転とEVへの世間の期待は、まさにこのハイプ・サイクルのとおりに推移しています。2023年8月にイーロン・マスクが総資産額で世界1位になり「EVが世界を変える」という期待が一気に高まった。ところが直近では「テスラは終わった」「EVはぜんぶ期待外れ」というネガティブな論調が強まっている。
田中:今のお話は、実際に投資家の方々とお話しする現場でも体感しています。「こういうリスクがありますよね?」「この辺りの蓋然性がまだ低いですよね?」などと聞かれることが多くなった。昨年の夏ごろから市況が一変した印象を受けますね。
佐俣:投資の世界って、基本的にみんな「勝ち馬」に乗りたいんですよ。だから、絶対に成功しそうな案件に群がる「矛盾したベンチャー投資哲学」がある。で、群がって市場がカオス状態になったところでリーディングカンパニーと目される企業の雲行きが怪しくなると、期待値が一気に下がるんですよね。
田中:このハイプ・サイクルの中で、投資家としてはどこで張るべき、と考えるのですか? あるいはアンリさんの投資哲学としては?
佐俣:一般的には、世の中の期待が一度下がっている最中に仕込んでおく。3、4年待ったらまた上がってくるから。でも現実的には、下がった時にはみんなリスクを取れないんですよ。頭でわかっていても。
僕の場合は、「いつかは上がるんだから、ずっとロングウェイで信じていたほうがいいよね」というスタンスですね。
山本:アンリさんは「最初の仮説は別に変わっていないでしょ? だから、僕はずっと(チューリングに)張るよ」とずっと一貫して言ってくれていて。細かいアドバイスは一切なくて、何を聞いても「大丈夫でしょ!」しか言わない。 僕たちも内心「本当に大丈夫なのか?」と不安なんだけど、振り返ってみれば確かに好不調の波はあっても僕たちの仮説やビジョンは変わっていない。アンリさんの言葉が僕たちの後押しになったところがありましたね。
佐俣:人類が達成したことのないことを信じるのは、すごく難しいんですよ。でも、自動運転なら少なくともやったことがある人がいるわけで、人類がやったことのあることをロングウェイで信じるのはそう難しいことではない。何も、「空飛ぶ車」を作ろうとしているわけではないからね(笑)。
「北極星=We Overtake Tesla」だけは見失わないように

山本:ありがとうございます。今はあえてAIと自動運転のほうにフォーカスして、マルチモーダルAIや半導体の開発にリソースを集中しています。その結果、2030年までにAIで稼働する自動運転車が開発できるという確信はより高まっていますね。
その話をこの間アンリさんにしたら、「それが合理的だと思うよ。でも、北極星は見失わないでね」って言われて……。これ、どういう意味で言ったんですか?
佐俣:マーケットや外部環境の変化などいろんなことは起きたけど、易きに流れなかったことはとてもよかったと思っています。
易きに流れるのは怖いことで、山本さんがその気になれば品川あたりの倉庫のフォークリフト専用ソフトウェアを開発して、気づいたら年間2億円稼ぐ会社ができあがっているんです。でも、僕たちは別に品川の倉庫の問題を解決したくてチューリングに投資したわけではないからね。
でも組織って面白くて、すごく賢い人が一生懸命考え抜いた結果、 意外とフォークリフトに行き着くものなんですよ。それこそコンサルティングファームにいるタイプの人たちが集まるとそうなりやすい。賢い人たちの合議のホラーですね(笑)。
山本:その話、すごくわかります。だから僕は「We Overtake Tesla」って言い続けているんです。そうすればフォークリフトの話には絶対ならないから。「We Overtake Tesla」は僕たちにとってのカルマ(業)ですよ。
佐俣:そうそう。その「北極星=何をやりたいのか」だけは見失わないでほしいんです。ルートを変えるのはいいけど、変えすぎて別のゴールを目指してしまうことだけはないように。チューリングがフォークリフトの会社になったら、「どうして自分は人生かけて、いろんな人に頭を下げて集めた資金をこの会社に全力ベットしたんだろう?」となってしまうので。
「北極星だけは見失わないでね」というのは、言い換えれば「引き続きファンキーでいてね」っていう山本さんへのメッセージです。周囲の人にとっては山本さんはファンキーに見えるけど、実はそれほどファンキーすぎないことを僕はわかっているので。「フォークリフトをやらないと会社を守れない」とわかったら、まともにフォークリフトのほうに行ける人だと思っているんですよ。
山本:いや、そうなったらもう解散です。解散。
佐俣:そう言えればいいよね。「この会社のビジョンがなくなったので、解散です」ってね。
HR立石の編集後記vol.3
「北極星をブラさずに大きな挑戦をしてほしい」というメッセージに、胸が熱くなりました。資金調達の中で一貫して経営陣のスタンスが変わらなかった裏に投資家からの強いメッセージがあったこと、日本が世界と戦うマクロな議論の渦中にいると実感できた幸せなイベントでした。この記事では語りきれなかった内容がYouTubeでは見れます。ぜひ下記リンクから見てください。
ライター:堀尾
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