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「短いDMから、成功したときのポテンシャルは普通でないとわかった」本田圭佑の新ファンドがチューリングを「出資第1号」に決めた理由

この記事に登場する人
CEO/代表取締役
山本 一成 Issei Yamamoto
東京大学での留年をきっかけにプログラミングを勉強し始める。その後10年間コンピュータ将棋プログラムPonanzaを開発、佐藤名人(当時)を倒す。東京大学大学院卒業後、HEROZ株式会社に入社、その後リードエンジニアとして上場まで助力した。海外を含む多数の講演を実施。情熱大陸出演。現在、愛知学院大学特任教授も兼任。

2024年7月、チューリングはプレシリーズAラウンドの後半として「X&KSK」をはじめとする投資家から15億円の資金調達を実施。総額45.38億円の調達で同ラウンドを完了し、完全自動運転の実現に向けてさらなる経営基盤の強化を図りました。

X&KSKは、サッカー選手で実業家、投資家でもある本田圭佑氏が2024年2月に設立した投資ファンド。「日本からデカコーンを創出する」ビジョンを掲げており、チューリングは同ファンドの第1号案件として出資を受けました。

今なおサッカーの第一線のフィールドで世界各国を飛び回る一方、これまでも個人のエンジェルファンド「KSK Angel Fund」などを通じて200社以上のスタートアップに投資をしてきたという本田氏。今回、どんな思いでX&KSKを設立したのか。そして、チューリングにどんな可能性を感じてくれたのか――CEO・山本一成との対談を通じて、本田氏の思いを語っていただきました。

きっかけは、一通のDMから

――まず、本田さんとチューリングとの出会いのところからお聞かせください。

本田 覚えているのは、山本さんからTwitter(現・X)でDMがいきなり届いたこと。「自動運転で世界を変えるんです!」って書いてあって。

山本 その節は、不躾にすみませんでした(笑)。でも、われわれ、世界の運命を変えるというスタンスなので。本田さんも同じだろうなと思いまして。

本田 でも、その短いDMの文面からも、やっていることの難易度と、成功したときのポテンシャルは普通ではないな、ということはすぐわかりましたよ。ただ、そのときは前のラウンドがほぼクローズしていたタイミングだったので、検討する時間がなくいったん流れました。

そこからちょっと時間が空いて、もう一回連絡を取らせていただいたのがここ最近で。それから今度はうち(X&KSK)としても正式に出資を検討して、このラウンドに入らせてもらったという経緯です。

山本 今年(2024年)の3月に、柏の工場にも来ていただいて。そのときに初めてリアルでお会いしましたね。

本田 そうですね。そこで山本さんをはじめチームのみんなと会って、コミュニケーションしている様子を見ながら「(チームとして)うまくやれそうかな」と。あとは、うちのチームには自動車業界にいた人間がいないので、外部にも意見を聞いたりして、最終的に出資を決めました。

山本 一般的なVCだと、投資委員会に諮るなどのプロセスもあるので、意思決定に何カ月かはかかると思います。そう考えると今回の出資はかなりのスピード感があったように思いますが。

本田 いや、僕のところにももちろん投資委員会はありますよ(笑)。でも、おっしゃるように、確かに速かったかもしれませんね。

▼(左から)CEO山本一成、本田圭佑、CTO青木俊介

「日本からデカコーンを創出する」という大義

――チューリングへの出資の決め手として、本田さんが評価したポイントは何ですか?

本田 チューリングに投資をしない理由は、出そうと思えばいくらでも出せるんです。ただ、僕の投資家としての視点をお話しすると、このX&KSKは2034年までの10年間を見すえた投資を目的とした投資ファンドです。その2034年までの未来を想定した際に僕がいちばん気にしたのは、「レベル5」といわれる完全自動運転技術が本当に10年後に社会実装できるのかどうか、ということ。「レベル4」でもすごいことなのに、さらにそれを上回る世界というのは、10年ではまだ無理なのではないか、というのが普通の見方でしょう。でも、一方で今日のAIの進化のスピードは、我々の想像をはるかに上回っているという事実もある。

そう考えたときに、チューリングがこの「レベル5」の完全自動運転のプロジェクトに全力で取り組むことで、業界全体がその恩恵を受けられるのではないか、と思ったんです。その結果、2034年には「レベル5」か、もしくはそれに近い形で、完全自動運転が社会実装されているのではないか――そんな、自動車業界、ひいては日本経済全体というマクロのレベルでインパクトをもたらしうる、チューリングのポテンシャルへの期待が、出資を決めたいちばんの要因ですね。

そこに加えて、チューリングという企業が「日本代表」として、ここ日本で事業を行うスタートアップであるということに意義があります。というのも、「日本からデカコーンを創出する」というのが、このファンドの活動の最重要な指針としてあるので。それこそレベル4、レベル5なんていうものを実現したら、デカコーンどころではないですから、チューリングがそのコンセプトに合致しているかどうかは一瞬でクリアしていましたね。

山本 いま、言いたいことを完璧に本田さんに語っていただきました。ありがとうございます!

私がこのチューリングを立ち上げたとき、「ここにボールを置いておくといいことがあるよね」というのが、まずベースの指針としてありました。

日本はもともと、自動車産業がかなり強い国です。その絶好のポジションに「完全自動運転」というボールを置いたら、確実にフリーキックでゴールを決められるという確信があった。誰がどう見ても人類のグランドチャレンジだし、自分たちが培ってきたAIのバックグラウンドとの相性もすごくいい。だから、まずはこの位置にボールを置こう、と思ったんです。

「あの本田圭佑も出資している会社なんだよ」

――チューリングとしては、本田さんのファンドから出資を受ける意義をどうとらえていますか?

山本 それはもう、めちゃくちゃ大きいです。おかげさまで多くのVCや投資家の方々から出資をいただいていますが、なかでも本田さんのファンドはエッジが効いてるというか……ストレートに言うと、やはり本田さんのネームバリューが大きいですね。

本田 ありがとうございます。海外ではハリウッド俳優やアスリートなどが「セレブリティファンド」を立ち上げる例は数多くあります。僕がウィル・スミスと立ち上げた「ドリーマーズ・ファンド」もその一つです。

このX&KSKがセレブリティファンドと言っていいのかどうかわからないけど……仮にそうだとするならば、日本におけるセレブリティファンドはただ1つ、このX&KSKしかない。日本ではオンリーワンであり、そこのポジショニングは間違いなくユニークではありますね。

山本 例えば、採用の面でもすごく期待しています。「チューリングに入ろうかな」と迷っている人がいるとして、でもご家族が「そんな名もない小さな会社に転職して大丈夫なの?」と心配している。そのとき、「いや、実はあの本田圭佑も出資している会社なんだよ」と説得することができる。

本田 なるほど。じゃあ、僕がチューリングの人事責任者になればいいかな(笑)?

山本 ぜひお願いします! それは冗談だとしても、安心感という意味ではとても大きな魅力であることは間違いないんですよ。そこは本当にありがたいです。

あとはもちろん、資金面での支えも大きい。今回のラウンドの調達でいちばん出資をいただいたのはX&KSKです。

本田 そうだったんですね。そうか、今回の後半ラウンドに関しては、ということですね。

山本 基本的に私たちが取り組んでいるのが、機械学習のオペレーションを速く回すこと。データを取って、データをクラウドに上げて、機械学習して、実際の車に落とし込む……ざっくり言うとこの繰り返しです。資金があればあるほど、このサイクルのペースを速くすることができ、それだけ「完全自動運転」のゴールに近づきます。

投資だけでなく、海外進出のサポートをしたい

――本田さんはこれまで、個人投資家としても数多くのスタートアップに出資してきました。今回、X&KSKという「チーム」として出資することは、これまでの個人のスタンスとの違いはあるのですか。

本田 繰り返しますが、このX&KSKでは「日本からデカコーンを創出する」ことをいちばんの目的に置いています。そこには、「黙っていては日本からデカコーンはなかなか出てこない」という僕の持論がベースにあります。

その理由は、日本市場が小さいこと。どんなにすぐれたプロダクトやサービスがあっても、海外に打って出ていかなければデカコーンにはなれません。でも、日本のスタートアップを見ていると、海外進出になかなか踏み込めない企業が多い。

そこで、このX&KSKでは投資だけでなく、投資後の企業に対して海外進出のサポートをしたいと考えています。そこが、これまでの個人のファンドとのいちばんの違いですね。

――サポートというのは、具体的にはどんなイメージでしょうか。

本田 基本的には「つなぎ込み」です。資金調達、パートナーシップ、採用などにおいて、我々のグローバルのネットワークを駆使して商談の場をセッティングすること。例えば海外の自動車メーカーと提携するためのミーティングをセッティングする、エグゼクティブメンバーや海外事業責任者をリクルートするための場つなぎをする。そういったグローバルにおいての「つなぎ込み」は、僕らだからこそやれるサポートだと考えています。

その点においては、国内の他のVCとは毛色がちょっと違いますよね。国内でも同じことは別にやれなくはないですが、それは他のVCでもやれる話なので。

出資額に表れる、本田さんの「覚悟」

――ちなみに、チューリングはX&KSKにとって「1号案件」ですが、2月に立ち上げた時点では150億円の資金調達を目指している、とのことでしたね。

本田 そうですね。2月にスタートして、現時点(※7月)ではコミットメントベースで半分くらいの出資額が集まっている状況です。残りを年内にかけて今集めているところです。

山本 もう半分コミットしてるというのは、けっこう速いペースという印象ですね。

本田 そうですか? それでも僕はめちゃくちゃ遅いと感じているんだけど……。150億円だから、30億円×5社で一瞬で決まるのかなと思っていたのですが、意外と決まらないなぁって(笑)。

山本 私が言っていいのかわからないのですが、今回出資していただいた5億円は、総額150億円のX&KSKにとって、一般的な投資のセオリーを考えるとバランスが悪い、つまり、それだけ多く出資していただいたと認識しています。その金額に、大きな期待をかけていただいているのを感じつつ、同時に本田さんの「覚悟」を感じました。チューリングという会社が大きくなることを信じて、賭けてくれている。発言と行動にまったくブレがない。それが、こちらとしても嬉しいかぎりです。

本田 ありがとうございます。もちろん、フォロー・オンのお金もプールしているので、その過程によってはさらに追加する可能性もありますよ。

デカコーン創出に必要な「ベンチャーエコノミクス」の循環

――X&KSKの設立目的として「日本からデカコーンを創出する」とのお話がありました。デカコーンになりうるポテンシャルを持った企業に限定するとなると、結果的に投資案件は少なくなりますよね。

本田 おっしゃるように、案件はおのずと絞られてきます。でも、裾野を広げるという発想は一切ありません。世界をリードするグローバル企業を日本から生み出し、経済大国としての日本のプレゼンスを維持することが、あくまで僕らの使命であり、大義でもある。そこだけはブレないようにしています。

普通のスタートアップなら日本国内の市場で売上を拡大して、上場して、そこから海外に出ようと考えますよね。でも、それでは遅すぎるし、上場してしまったら四半期ごとの目の前の数字に追われて大胆な投資ができなくなってしまう。それでは遅いんです。

もちろんスモールIPOを否定はしないし、IPOによっていろんな人が富を手にしているのは事実です。ただ日本全体の将来を考えると、100億円の企業が100社生まれるより、1兆円企業が1社出てくるほうが、社会的・経済的なインパクトは大きいと思っています。

山本 改めて、その本田さんのお考えのもとで、今回X&KSKの「1号案件」として出資していただいたことに感謝します。同時に、私自身も当事者として、日本という国からデカコーンが2社、3社と生まれる流れを生み出さなければいけないとの使命感を抱いています。

みんながわかっているような話をあえてするのですが、アメリカってやっぱりすごい国だと思うんです。起業家がいて、それに応える投資家がいて、起業を成功させることで富が巡って、それを一部はVCに還元し、一部はメンバーにストックオプションとして配分する。私は「ベンチャーエコノミクス」と勝手に言っているのですが、その循環でひたすら大きくなり続けて、いくつものデカコーンを生み出しているのがアメリカの強さの源泉ですよね。

日本においてはその「ベンチャーエコノミクス」の循環がなかなか回っていないのですが、以前の会社から決して小さくないストックオプションをもらって起業の「1周目」を経験した私たちの世代が、そのお金を今の会社につぎ込んでいるからこそ、膨大な資金を要する完全自動運転というものにチャレンジができるんです。

だから「2周目」を走っている今は、背負っているものがたくさんあると自覚しています。日本のベンチャーが本当にこんなディープテックを成功させられるのか、まだみんな信じきれていない。ストックオプションだって、メンバーの中にも「本当にそんな大金を手にできるの?」と半信半疑な人はまだ多いんですよ。

でも、こういったことを一つひとつ現実のものにすることで、もっと多くの才能がスタートアップの世界を目指してくれる。その流れを、私たち「2周目」の起業家世代がつくり出さなければいけない。その意味でこのチューリングは「2周目」から次世代の「3周目」に世代のバトンをリレーすることも、大きな使命の一つだと思っています。

本田 山本さんのいう「ベンチャーエコノミクス」の循環が回り出すことで、チューリングはもちろん、日本からデカコーンが2社、3社と生まれる未来が近づきますね。

チューリングくらいの規模のビジネスは、人材面、技術面、法制度面も含めたすべての歯車がかみ合って初めて成功するくらいの壮大なチャレンジです。そのための仲間ももっと集めていく必要があります。X&KSKも、チューリングのチャレンジの成功に向け、できるかぎりの支援をしていきます。

HR立石の編集後記vol.15

チューリングに投資を決めた理由から、チューリングへの期待などさまざまな話を聞きました。チューリングの夢の大きさに懸けてくれるみなさんの期待に大きく応えていこうと改めて身の引き締まるインタビューでした。

ライター:堀尾

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