クルマから来た人、システムから来た人。——二つのキャリアが辿り着いた「自動運転車両エンジニア」という仕事
完全自動運転を実現するAIモデルがどれだけ賢くなっても、それを載せて実際に道を走る「車両」がなければ自動運転は成立しない。そのハードウェアを担うチューリングのチームに、山岡と天笠という二人のエンジニアがいる。一人はレーシングカーの電装からキャリアを始めた「クルマ屋」、もう一人は電力会社向けの業務システム開発からキャリアを始めた「システム屋」。まったく違う場所から出発した二人に、これまでのキャリアと今の仕事について聞いた。
二人のキャリア遍歴
ーーまずは、自動運転業界に入る前のキャリアから聞かせてください。

山岡:社会人としての最初のキャリアは、トヨタ自動車の子会社である特装車メーカーで、モータースポーツで使うレーシングカーや、パトカー・救急車などの特装車の電装品、特にワイヤーハーネスの設計・製造を担当していました。働く車をだいぶやってきましたね。レーシングカーの世界は、量産車のように何年もかけて開発するのではなく、シーズンごとに車両を作り変える必要があります。イベントに車が間に合わなければ、勝負すらさせてもらえない世界でした。
その後、日産自動車で量産車のワイヤーハーネスの設計・評価をする仕事をさせてもらいました。ここでは一転して、10年以上使われることを前提にした「壊れてはいけない」設計に向き合うことになります。続いて、自動運転するトラックを開発するT2という会社で、ハーネス周りや電装品の設計・製造・運用を担当していました。同じ自動運転業界なので、今のチューリングに来てからも、車を運用するという面ですごく役に立っている経験だと思います。
天笠:私は三菱電機に新卒入社して、電力会社さんの設備管理システムをSIerとして、基本設計から実装、テストまでやっていました。次にスバルに転職して、部品表(BOM)を扱う生産管理システムのPMOというところで、システム開発を担当していました。量産の現場は独自の文化やルールがあって、最初は戸惑うことも多かったですね。自分は部品表更新という立場だったので、このままでは新しい車の開発になかなか携われないと感じていました。
その後、自動運転バスの実証実験を行う先進モビリティに転職しました。地方の公共交通は限られた予算と人手でやりくりしなければならない現場で、各地の実証実験でバスを走らせるための現地調整や、走行中に起こるトラブルへの対応を担当していました。事故ではないんですけど、色々な出来事が現地で起こるので、それに対応してきた経験が、一番チューリングに活きていると思います。新卒時代の自分からしたら、結構不思議なところにいるなと思っています。
キャリアの棚卸し——直結する経験、意外と効いた経験
ーー「あの経験がなかったら今の仕事はできていない」と思う経験はありますか?
山岡:一番大きいのはレースの経験です。イベントに車が走らなかったら、もう勝負すらさせてもらえない世界なので、何が何でも日程を間に合わせる、常にプランB、プランCを考えるという仕事の仕方は、そこで学んで今もすごく活きています。絶対にうまくいくとは限らないので、プランAを進めながらバックアップも考えて、ダメならどんどん切り替えて時間通りに仕上げる、という経験です。

天笠:私は、設計して、作って、評価してというV字サイクルを回した経験が活きています。あと、スバルでちょっと部品表をやったので、車のパーツの構成や、「アッシー」みたいな部品の呼び方は、そこで学んだ気がします。
ーー逆に、「こんなことが役立つとは」という意外な経験はありますか?
山岡:最初の会社と日産自動車の時に、シミュレーション関連の業務をサブタスクでやっていて、サーバーやLinux系の話にかなり触れていたんです。全く知らないところからじゃなかったので、その経験は今すごく助かっています。
天笠:SIer時代の経験ですね。業務システムの開発では、使うユーザーさんとも、発注者である情報システム部門とも話さなければいけません。前提を合わせないと会話が成り立たなくて、エンジニアが描く理想像とユーザーが描く理想像は本当にかけ離れていくので、そこを気にしながら進める感覚は、今の仕事でも活きています。「これはいらない」と言われた機能が、実はユーザーさんがめっちゃ欲しがっていたと後から分かることもあるので、そういう最終確認は大事だと思っています。

ーー車業界特有の言い回しには、最初から慣れていたんですか?
山岡:そんなには分からなかったです。研修で分厚い用語集や事例集を叩き込まれた経験があって、当時は「こんなの覚えられないよ」と思っていましたが、1、2年で自然と使えるようになりました。ただ、前職の専門用語をつい使ってしまって、サプライヤーさんとの打ち合わせで伝わらなかったこともあります。車業界出身者が少ない環境なので、話す前に「これは業界独自の言い回しかもしれない」と意識するようにしています。
天笠:逆に、それでポロッと伝わると、盛り上がって会話が発展したりしますよね。(笑)
ーー入社した時点で「これはやったことがないな」と感じた業務はありますか?そのキャッチアップはどうしましたか?
天笠:バスの現場では配線の繋ぎ直し程度の改造しかしていなかったんですが、チューリングで初めて車体に穴を開けるような改造をしました。最初は「本当にここに開けていいのか」とすごくドキドキしましたね。その場で教えてくれる人がいたので、2、3日で見せてもらって、「じゃあやっていいよ」となりました。失敗しても強く咎められる文化ではなくて、前向きに挑戦する分には歓迎される環境です。
山岡:僕はチューリングに合流してまだ半年ぐらいなんですが、それまでの自動運転の考え方と全然違うシステムに驚きました。チューリングはE2Eを推しているので、ハードウェア的にはすごく構成部品が少なくて、「本当にこれだけで車が走るの?」というのが最初のギャップでした。カメラ映像などのデータを収集する仕組みもすごく整理されていて、今まで触れたことのない分野だったんですが、自然と扱えるようになりました。会社が色々なAIツールの活用を推進してくれているので、忙しそうな人には聞きにくい質問でも、AIになら気にせず投げかけられて、キャッチアップの助けになっています。
ーー部品が少ないことは、現場としては嬉しいものですか?
天笠:嬉しいです。まず壊れないじゃないですか、ないってことは。設置作業もないし、配線や電気の計算も減ります。
山岡:特に電気は減らした方が嬉しいです。車はそんなに電力を追加できるようにできていないので、減った分だけ安定稼働しやすくなります。自動運転の車は計算機のパワーが性能にかなり左右されるので、電力に余裕があるだけ嬉しい。ただ、新しいことをやろうとするとどうしても機器が増えるので、できる限り減らすのを目標にして、つけて試して、いらないなら外す、というのをずっと繰り返しています。
仕事の中身——1日の流れと、車が走り出す瞬間

ーー普段の1日の流れを教えてください。
天笠:メインで使っている実験車両群を見ていて、データ収集や制御実験をしている車の日々の課題をどんどん潰していく作業です。台数が一番多いので、横展開の作業が結構手間がかかります。前日から明日空いている車を探して予定を入れて、配線の修正や機器の取り外し、原因究明などをやっています。走行中は運行が最優先なので、メンテナンスできるのはどうしても朝か夜になります。車両がまとまって戻ってくる夜の方が作業しやすいので、夜遅くまでいることが多いですね。
山岡:僕は新しい車やシステムの立ち上げをスピーディに行う役割で、既存の車にもいい影響がありそうなら天笠さんと連携して横展開していく、という役割分担です。今後は複数メーカーの車両に対応していく必要があって、メーカーによって車のアーキテクチャが違うので、その差を吸収していかないといけません。難しさでもあり、楽しさでもあります。実際に車をばらしてみると、メーカーごとの設計思想の違いに気づけるのが面白いですね。

ーー自分が手がけた車両が実際に走り出す瞬間は、どんな感覚ですか?
天笠:立ち上げた車が最初に出ていく時、社員みんなでお見送りするのが恒例になっているのですが、その様子をみんなが「良かった、良かった」と見守って送ってくれるのが嬉しいし、楽しさを感じる瞬間ですね。
山岡:作った車が最初に出ていく時は感動しますし、みんなが困っていたことを解消して良いリアクションをもらえた時は、やってよかったなと思います。ハードでやれば簡単なことをソフトが苦労していたらハードでやればいいし、逆も然りですよね。その垣根が低いのがすごくいい環境で、作る人と使う人の顔がお互いに近い。これはすごく珍しい環境だと思っているし、チューリングのいいところだと思います。
“作る人と使う人の顔が、お互いに近い。これはすごく珍しい環境だと思います。”
なぜチューリングを選んだのか
ーー数ある選択肢の中で、なぜチューリングを選んだのですか?
天笠:先進モビリティにいた時、限られたリソースの中で自動運転バスの実用化に取り組む中で、ルールベースの限界を感じていました。自動運転を実用化するにはE2EのようなAIを使わないと厳しい、というのが見えてきて、日本でE2Eを一番進めている会社としてチューリングを選びました。
山岡:僕も、前職でルールベースの難しさを実感していた時期に、自家用車としてテスラに乗ってみて、E2Eという方式がすごく魅力に感じたんです。日本でE2Eをやっているといえばチューリングかな、という感覚で選びました。

ーー過去の自分にこの求人を見せたら、応募すると思いますか?
天笠:三菱、スバルの頃の自分だったら、応募しないと思います。こんなにハードをいじることになるとは思っていなかったので。
山岡:僕も、新卒の時に今の求人を見ていたら、車業界しか経験がなかったので選ばなかったかもしれないですね。
正規ルートがない、ということの証明
ーーここまでの話を聞くと、本当に多様な経験がこの仕事に活きているんですね。
山岡:まさに総合格闘技みたいな感じです。今までの経験や知識をフルリソースで注ぎ込んでも、正直まだまだ全然足りないくらいです。
ーーそんな仕事だからこそ、どんな人に来てほしいですか?
山岡:まずは車やモノづくりが好きな人に来てもらいたいですね。作るのが楽しいと思う人とぜひ一緒に働きたいです。会社がAIツールを支援してくれる環境は本当に助かっているので、そういう新しい技術に触れたい人にもとても良い環境だと思います。
天笠:自分で「あれこれ試してみたい」と、失敗を恐れずに攻めていける人に来てほしいです。やりたいと思った時に止める人は誰もいませんし、ダメだったら「ダメだと分かったね」で次に進める文化があります。使う人がすぐ社内にいて、目の前で動かせて評価をもらえるので、どんどん挑戦したい人にはぴったりだと思います。
高専(高等専門学校)や理系出身者が多く、エンジニア同士で話が通じやすいのも、チューリングの現場らしさの一つだと思います。個人的には「これまでの経験の中でも社内のコミュニケーションが取りやすい」と感じます。みんな『自動運転を作る』という明確な目標に向かっているので、どんどんチャレンジできる環境は本当にありがたいと思います。

ーー最後に、一言ずつお願いします。
山岡:今、開発が加速度的に大きくなっていて、本当に手が足りていません。ソフトウェアで自動化できる部分も増えましたが、最後は実際のハードウェアに実装するマンパワーが必要です。ぜひお手伝いいただけると助かります。
天笠:至急、大募集です。ソフトウェアはコピペができますが、ハードウェアはコピペができません。今そこがボトルネックになりつつあるので、少しでも「やってみたい」と思う方がいれば、ぜひ来てくて欲しいと思っています。
二つのキャリアと、「これまで」の交差点
架装や電装、整備の現場を経験してきた人にとって、山岡さんのキャリアは一つのモデルケースになる。レーシングカーや特装車で培った「限られた時間で仕上げる」感覚、量産車で培った設計・評価の経験は、そのままこの現場で活きる。実証実験や計測、システム開発の現場を経験してきた人には、天笠さんのキャリアが参考になるだろう。現場調整力や、複数の関係者の間で前提を合わせながら進める力は、車両とAIの両方に関わるチューリングのような環境でこそ価値を発揮する。ハードウェアの経験が浅くても、現場で手を動かしながらキャッチアップできる環境が整っているのも、二人のチューリングでの歩みが示す通りだ。本人たちは気づいていないだけで、道は繋がっていた。
“異なる入口から来た二人が、同じ現場に立っている。それが、この仕事に正規ルートがないことの証拠だ。”