自動運転とWebの世界は意外と地続きだった

インタビュアー: 本日はお時間いただきありがとうございます。早速ですが、まず海老澤さんのこれまでのキャリアについてお聞きしたいです。
海老澤さん: 学生時代、実は高専でロボットを作っていたんです。子どもの頃からドラえもんへの憧れや、電子基板の格好良さに惹かれてロボットを作りたいと思っていて、それが高専に入ったきっかけです。
しかし、実際にロボットを作ってみると、すごくポンコツで…。機械なので当たり前なのですが、ちゃんと1つひとつ、数値を細かく設定してあげないと、その通りにしか動かない。「ロボットってこんなにも頭が悪いのか」って、なんだか悲しくなったんです。
そんなモヤモヤを抱えながら受験勉強をしている頃に、日本でもAIがブームになってきました。特に、2012年にアメリカの大学の画像コンペティションで、ディープラーニングという技術がすごい精度を出したという話を知って、直感的に「これからはAIだ!」と感じました。ロボットたちも、AIを使えばもっと賢くできるんじゃないか、という漠然とした期待感を持ったんです。
インタビュアー: ロボットを作られていたんですね、意外でした。
海老澤さん: そうなんです(笑)。その思いが強くて、大学院でもAIの研究室に進みました。当時、AIの活用に積極的なのは、サイバーエージェントのようなメガベンチャーだという印象があって、特に「これをやりたい」という明確な希望はなかったのですが、様々なAIに関われるだろうという期待で、入社を決めました。
入社後はAbemaTVに配属され、最初はMedia Analyzerという動画解析基盤の開発に携わりました。当時、今でいうChatGPTのような汎用的なAIツールはなかったので、動画を入力して「このシーンはゴールです」とか「レッドカードが出ました」といったタグを自動で振り分けるシステムを作って、編集の効率化を図っていました。
その後は、動画のサムネイル配信の検証プロジェクトや、レコメンド基盤の運用チームにも参加しました。いわゆるML(機械学習)のための基盤や、データパイプラインの開発が多かったですね。モデルのトレーニング自体はあまりやっていませんでしたが、モデルをいかに効率よく世の中に届けるかというテーマに取り組んでいました。
インタビュアー: 3年間で様々なプロジェクトを経験されたんですね。そこで、なぜチューリングに興味を持ったのでしょうか?
海老澤さん: もともと学生時代からAIに興味があったので、将棋AI「Ponanza」のニュースは知っていました。その開発者である山本一成さんが、自動運転の会社を創業したと知ったのは、実は創業初期の2021年頃でした。当時はまだサイバーエージェントに入ったばかりで、MLの基盤開発に注力していたので、すぐ転職を考えることはなかったですね。
しかし、働いているうちにChatGPTのような汎用的なAIが登場して、AIの進化を肌で感じるようになりました。昔思い描いたドラえもんが、もっと現実味を帯びてきたというか…。「自分の人生は短いし、もっとこの技術にコミットしていきたい」という思いが日増しに強くなっていったんです。
インタビュアー: チューリングとの接点は「チューリング飯(※)」だったと伺っていますが、海老澤さんからDMされたんですよね。
※チューリング飯とは、転職意向に関係なく社員と会食に行ける制度です
海老澤さん: はい、そうです。元々、自動運転は数年後には当たり前になるだろうという確信があって、その思いを抱えながらTwitterを見ていたときに、たまたまチューリング飯の募集を見つけました。話を聞くだけならデメリットはないし、ご飯も食べられるし、と思って思い切ってDMを送りました。
インタビュアー: DMを受け取った採用担当の塩塚さんも驚いていました(笑)。「まさか応募してくれる方から連絡が来るとは思わなかった」と。
海老澤さん: 僕は逆に、みんな応募しているだろうなと思っていました。注意書きに「全員と会えるわけではないですよ」と書いてあったので、急いで応募しないと!という焦りがありましたね。その後、オープンオフィスという採用イベントに参加させてもらい、選考に進むことになりました。
ソフトウェア開発のナレッジを自動運転開発に適用させていく

インタビュアー: 選考や体験入社を通して、当時のチューリングの開発進捗をどう感じましたか?
海老澤さん:面接時にわれわれのMLOpsやデータ基盤は発展途上と聞いていました。でも、それが私にとってはワクワクできるものでした。すでに完成されたものをいじるよりも、自分でゼロから作っていく方が楽しいじゃないですか。まだ途中ということは、自分にやることがたくさんあるということなので、むしろ良いタイミングだと感じました。
特にMLOpsチームのデータパイプラインについては、当時はまだ、動画から画像を全部切り出してデータベースに保存する、という非構造化データを構造化データにするプロジェクトがありました。その業務のイメージが具体的に見えたんです。これなら自分も貢献できるだろう、と感じました。
インタビュアー: 入社してからは具体的にどのような開発に取り組みましたか?
海老澤さん: 2024年12月に入社してからは、特定の期間で区切られた大きなプロジェクトというよりは、MLOpsの目標である「実験のサイクルをいかに早く回すか」に貢献できる部分をどんどんやっていきました。
例えば、AWS Lambdaで動いていたパイプラインをAWS Batchという別のサービスに移行して、実行効率を上げるプロジェクトや、データセットを生成するコンソール画面の改善ですね。MLエンジニアからの「もっと使いやすくしたい」という要望に応える形で、UIやツールの統合を進めたりしています。Web業界では、日々多くのナレッジが生まれています。それを自動運転に活かしていくのは非常に楽しいです。
インタビュアー: MLOpsの仕事をしていて、特に大変だと感じたことはありますか?
海老澤さん: 難しいのは、自動運転開発に最適な基盤そのものを作ることです。ベストプラクティスがない中で、課題を見つけて改善を積み重ねる必要があります。
その際に特に意識しているのは、新しい機能や変更が本当に課題解決につながるようにすることです。課題を具体的な作業に落とし込めるよう、関係者とよくコミュニケーションをとってから実装に進めるようにしています。
インタビュアー:入社して学んだことやキャッチアップしたことを教えてください
Turingのデータセット基盤(JADD CREATOR)はAWS上に構築されており、最近はGCPを扱ってきた私にとって、AWSのサービスを理解すること自体が新しい学びでした。加えて、走行動画の再生やデータセット作成のためのNext.js製フロントエンド、datalakehouse基盤としてのDatabricksなど、幅広い技術を学ぶ必要がありました。分からない部分は社内の経験豊富なエンジニアに相談しながら進めることで、効率的にキャッチアップできています。
Webサービス開発との大きな違いと、コストへの意識
インタビュアー: チューリングのMLOps開発は、これまでの開発とどういった違いがあると感じますか?
海老澤さん: Webサービスは、1秒間に数万件といった大規模なリクエストをさばくことが求められます。ユーザーに素早くレスポンスを返すことが最優先なので、いかに素早く返せるかの工夫が重要です。
一方、チューリングの開発では、リクエストの数は非常に少ないです。社内ツールなので当たり前ですが、1日に10件に満たないこともざらにあります。しかし、1回のリクエストで非常に大きなコストがかかる、という特徴があります。ミスをした時の経済的な損失も大きいので、いかにコストを抑えて効率的に動かせるかが求められます。Webサービスのように、大規模なリクエストを利用してA/Bテストを気軽に試す、といったことは難しいですね。
開発環境を用意して、一部のデータで検証を動かしたり、ユニットテストやインテグレーションテストを徹底して、なるべく損失が出ないように工夫しています。ただ、それでも失敗してしまうことはあるので、将来的にはWebサービスのように自動的にフォールバックできるような仕組みも取り入れたいと考えています。
インタビュアー: チューリングの開発で扱うデータ量は多いですか?また、コストへの意識への違いや変化はありますか?
海老澤さん: 最近は、一つのデータセットで数十テラバイトにもなることがあります。ストレージの速度を意識することは前職ではなかったので、信じられない量のデータを扱い、それに最適化されたシステムをどう作るか、という部分はとても面白いです。
また、前職でもコストの感覚を持つように言われていましたが、チューリングでは自分がコストを握っているという感覚がより強いですね。だからこそ、常に緊張感と責任感を持って開発に取り組んでいます。
そのため、同じ処理をより安く、効率的に動かせるようにすることが一つの目標です。不要な処理を削ったり、マシンを最大限に使い切ったり、日々その方法を考えています。
インタビュアー: 今後、ご自身のキャリアや、チューリングでの開発の展望を教えてください。
海老澤さん:今後の展望として、走行実験に行かなくても開発ができるような状態を目指したいです。シミュレーター環境も含めて、車に乗って感覚を確かめる時以外は、すべて開発環境で完結できるようにしたいと思っています。そうすれば、走行実験を週1回や2週間に1回程度に減らせて、より効率的に検証ができるようになると思います。
Web技術は、様々な操作をパソコン上で行うことにおいてかなり進歩しているので、そういった技術も積極的に活用しながら、実験全体を最適化していきたいです。
インタビュアー: 最後に、どのようなソフトウェアエンジニアがチューリングに合うと思いますか?
海老澤さん: 一言で言うと、部署間の垣根なくコミュニケーションを取れる人だと思います。チューリングは、部署間の連携を円滑にしようと皆が努力している組織です。正解がまだない中で、自分で新しいコミュニケーションの方向性を作り、より良いものにしていける人が求められていると思います。
インタビュアー: 自分たちで正解を作っていく、ということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
海老澤さん: こちらこそ、ありがとうございました。