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【特別鼎談】「挑戦し続ける組織」はどう作られるのか──チューリングとGMOインターネットグループ、2つの哲学と10年後の未来

この記事に登場する人
チューリングCEO
山本 一成 Issei Yamamoto
「We Overtake Tesla」をミッションに掲げるチューリングのCEO。10年間コンピュータ将棋プログラムPonanzaを開発、名人を倒す。東京大学大学院卒業後、HEROZ株式会社に入社、その後リードエンジニアとして上場まで助力した。海外を含む多数の講演を実施。情熱大陸出演。現在、愛知学院大学特任教授も兼任。
GMOインターネット株式会社 代表取締役 社長執行役員 GMOインターネットグループ株式会社 取締役 グループ副社長執行役員
伊藤 正 Tadashi Ito
1997年(平9年)大阪経済大経営卒、インターキュー(現GMOインターネットグループ)入社。2024年に取締役グループ副社長執行役員グループ代表補佐。2025年1月から現職。兵庫県出身。
GMOインターネットグループ株式会社 グループ専務執行役員
内田 朋宏 Tomohiro Uchida
2011年(平23年)慶大経済卒、2012年GMOインターネット入社。2022年GMO Web3社長。2023年GMOインターネットグループ執行役員。2024年同社常務執行役員、GMO AI&ロボティクス商事社長。2025年グループ専務執行役員。京都府出身。

はじめに

人類のグランドチャレンジ「完全自動運転」。チューリングは今回、その挑戦を次のフェーズへ進めるためにシリーズA 1st Closeとして152.7億円の資金を調達しました。 これまで積み上げてきた技術開発を基盤に、ここからは計算リソース、データ拡充、組織体制の強化をさらに進め、技術と事業の両輪を本格的に回していきます。

今回は資金調達を記念し、シリーズA 1st Closeの出資者であるGMOインターネットグループ株式会社 グループ専務執行役員 内田 朋宏様、 GMOインターネット株式会社 代表取締役 社長執行役員 伊藤 正様、そしてチューリング代表取締役CEO 山本 一成による鼎談をお届けします。

GMOがチューリングに投資を決めた“3つの理由”

— 本日は、お時間をいただきありがとうございます。早速ですが、まずはGMOインターネットグループ様がなぜチューリングに出資を決めてくださったのか、というところからお伺いしたいと思います。

伊藤: ありがとうございます。まず、我々GMOインターネットグループのAIに関する直近の取り組みについてお話しさせてください。我々は、インターネットが始まったときから、インターネットのインフラ、ドメイン、プロバイダー、レンタルサーバーといった分野にコミットし、成長してきました。

我々は産業革命のサイクルを「55年」と捉えており、1995年のWindows 95誕生以降をインターネット革命の始まりと見ています。そして昨年、ChatGPTが登場して生成AIが急激に普及したことで、この55年サイクルの後半戦は「AI革命」が訪れると確信しています。

現在、グループを挙げてAI強化を進めています。取り組みは3つです。1つ目は、全社でAIを使いこなし業務効率を上げること。2つ目は、既存サービスにAIの仕組みを導入し、質を向上させること(例:カスタマーサポートのAI化や、AIによるホームページ作成など)。そして3つ目が、私自身が担当している「GMO GPUクラウド」といった、新しいAI領域へのチャレンジです。

こうした中で、AIを強化するというキーワードに基づき、様々な企業へ出資させていただいています。チューリングさんへの出資理由については、投資担当の内田からご説明します。

内田: チューリングさんへの出資を決めた理由は、主に3点あります。

1つ目は、チューリングさんがトップクラスのAIエンジニア集団であるという点です。そして、自動運転の分野では欧米系のプレイヤーが先行する中、「国産」でこの挑戦を成し遂げようというビジョンに強く共鳴したことです。

2つ目は、事業上のシナジーです。チューリングさんのチャレンジに、我々の最先端GPUインフラを活用していただくことで、その過程で得られたチューリングさんのノウハウや知見が、我々GMOインターネットグループのプロダクトにフィードバックされ、品質向上に繋がるというシナジーの部分が大きく魅力的に映りました。

3つ目は、将来的な展望です。自動運転は自律走行するロボットとも言えます。今後ヒューマノイドロボットが普及していく中で、自動運転で培われたチューリングさんのノウハウや知見が、ヒューマノイドの分野で大きなヒントを得られるのではないか、という期待があります。

山本: 素敵なコメントをいただきありがとうございます。

伊藤: AI社会はまだ始まったばかりです。だからこそ、トップクラスの技術を持たれ、最先端のチャレンジをされている方々と一緒にお仕事をすることが、我々自身の発展にも、日本の発展にも繋がると考えています。チューリングさんは、まさにその高い目標に向かって邁進されている点で、最高のパートナーだと感じています。

完全自動運転という人類のグランドチャレンジを“日本から”達成する

山本: ありがとうございます。実は、私がチューリングという会社を始めた大きな理由の一つは、日本国内で、世界で戦える「良いチャレンジ」が非常に少ないと感じていたからです。

完全自動運転を目指すというのは、間違いなく人類のグランドチャレンジです。アメリカや中国で盛んにやられているような挑戦を、日本で本格的にやろうという例は少ない。ましてや、我々が創業した当時、AIベースで完全自動運転を実現しようというプレイヤーは、国内にいませんでした。

我々は創業時より、カメラ画像からEnd-to-Endで直接運転指示を行う高度な自動運転AIを開発しています。これは今や世界の潮流ですが、単一の巨大なニューラルネットワークを構築し、学習させるためには、莫大な計算基盤(GPUインフラ)が必要です。今回GMOさんにご支援いただいたのも、この計算基盤の確保という点で非常に重要でした。

伊藤: 自動車産業は日本の産業の中心です。今まで日本の成長を支えてきたし、この先には自動運転があります。この分野を日本企業としてやりたい、という思いは強いですよね。

山本: そうですね。自動車産業は日本の基幹産業ですが、今、大きな危機感を抱えています。米中では数多くのスタートアップが次々と誕生し、その中でも急成長を遂げて市場をリードする存在が現れています。このようなゲームチェンジが起きている現在だからこそ、チャレンジする意義がありますし、我々チューリングが、日本の自動車産業を支えられる存在になれると考えています。

悔しい話ではありますが、日本のスタートアップが海外で圧倒的な成功を収める例はまだ少ないのが現状です。ソフトウェアや文化的な要素を含むドメインでは、言葉の壁や一定の難しさがあるからでしょう。

しかし、車は違います。日本で売る量よりも、海外で売っている量の方がずっと多い。つまり、物理的な「良いもの」があれば、世界中どこでも売れるという実績がすでにあります。我々の自動運転技術をこの「車」に乗せることができれば、自然に”Go Global”になる。これは、従来の日本のスタートアップができなかったことを、自然な形で達成できる戦略だと確信しています。

挑戦し続ける組織は何で決まるのか──“GMOイズム”とチューリングの“シングルイシュー”

— 挑戦を止めない組織のあり方として大切にしていることや実践していることはありますか?まずはGMOインターネットグループ様から。

伊藤: GMOインターネットグループの組織構造は、「任せる部分」と「徹底する部分」に分かれています。

徹底する部分というのが、全パートナー(社員)が最も大切にしている「GMOイズム」です。この「GMOイズム」には、私たちの考え方の根幹である「スピリットベンチャー宣言」や、長期目標である「55年計画」などが書かれています。さらに、目標達成に向けた行動指針やリーダーとしての心得なども網羅されており、これは一人ひとりが心に刻み、最も大切にしているコアの部分です。

逆に言えば、この「GMOイズム」さえ守っていれば、グループ各社の社長は、もちろん成長することを前提に、自分たちのやり方で自由にやっていいと任されています。

例えば、グループ内でも服装はスーツが多い会社もあれば、Tシャツが主流の会社もある。出社時間を統一しているところもあれば、フレックスな運用をしているところもあります。しかし、「スピリットベンチャー宣言」や「GMOイズム」に書かれていることは、全ての会社が徹底して守ります。

これが、我々が100年単位で成長していくために必要な骨子であり、ここにこだわりを持っていることがGMOインターネットグループの強さだと考えています。任されている部分が多いからこそ、新しいチャレンジをする人もたくさん生まれますし、皆がそれを応援する文化があります。

内田: 伊藤の回答と重なりますが、グループ幹部全員が「GMOイズム」を実践し、挑戦する気持ちを持ち続けていることが一番大きいですね。

そして、我々にはまだ危機感があります。挑戦し、新しいことをやって、新しい産業を作っていかないと、100年後にはグループがなくなっているかもしれない、と全員が思っています。この「生き残るために挑戦する」というマインドが、トップからグループ幹部全員に染みついているのが、GMOインターネットグループの組織文化の核になっていると思います。

— チューリングはどうですか?

山本: “We Overtake Tesla”ですね。もう少し具体的に話すと、チューリングはある意味で「シングルイシュー」の会社です。「完全自動運転を作る」という目的が、全社員にとって非常に明確です。その山の夢に向かって、全員がついてきて、一緒に実現しようという推進力が、我々の組織の強さですね。

山本: スタートアップとしては、始めたばかりの頃は特に、イシューを増やしちゃいけないと思っています。集中力を高めるために、一つに絞っているという側面もあります。

伊藤: チューリングさんが掲げられている夢がものすごく大きいし、社会的意義もある。そして、それが完成した時のロマンが明確なのが、すごくワクワクしますね。そういう壮大なチャレンジに集中できるというのは、エンジニアの皆さんにとって非常に幸せな環境ではないかと思います。

山本: ありがとうございます。組織が大きくなるにつれて、ベンチャーには「30人、50人、100人、300人、1,000人」といった規模の壁があると言われますが、この壁を乗り越える際に、何か苦労された点はありますか?

伊藤: 自分自身が変わらないと、この規模を回せないという危機感は、成長していく中で常に感じていました。

最初は熊谷(GMOインターネット代表取締役会長兼社長・グループ代表)からもらったミッションを、1から100まで自分でやるというスタイルでした。しかし、それでは一人で回らなくなる。チームを増やさなければならない。少数のチームでは回らなくなり、任せる人を増やさなければならない。しかし、任せ方が難しい。

「任せないと自分のキャパシティがオーバーしてしまうが、任せ方が難しい」という葛藤の中で、私自身が自己を「改造」しながら進んでいきました。過去のやり方にこだわりすぎず、会社の成長と、自分に与えられたミッションを達成するためにどうすべきかを常に考え続けましたね。せっかくチャンスをいただいたのに、自分のキャパシティで超えきれないのは悔しい。その悔しさを乗り越えるために、日々試行錯誤し、少しずつ乗り越えてきたという感覚です。

内田: 私は今まさに、その「自己変革」の途上にいる感じですね。徐々に自分を変えていかなければならない、という意識でいます。

山本: 変わったのは、何かご自身で思うことがあったのですか?

伊藤: やはり会社の成長のスピードが非常に早いので、この成長を達成するには、もう自分1人の個人のパワーだけではどうにもならない、と感じ始めました。初めは個人として会社に貢献できているという手応えがあったのですが、急激に会社が成長していく中で、このままでは置いていかれるという危機感を覚えたのが大きな転機でしたね。

— チューリングは今後5年間でどの程度の規模を想定されていますか?

山本: 今から5年後というと正確な人数は分かりませんが、300人から1,000人のオーダーのどこかに入っていると思います。そしてある程度幅を持たせているのは、「組織の大きさはGPUの数に比例する」と考えているからです。

伊藤: やりたいことと、それを実現できるキャパシティ、ということですね。

山本: まさにその通りです。少なくとも、自動運転を作るというシングルイシューにおいては、組織の大きさは計算資源の数に比例するという、変わった組織なんじゃないかと思っています。

AIエンジニアがどれだけ優秀でも、例えば1ノードの計算機パワーしかなければ、彼らの力を全部発揮するには足りません。それは非常にもったいないことです。これは、チューリングにおいて計算リソースが、単なるツールではなく、事業と組織の成長を決定づける「資源」であることを示しています。

日本のAIを牽引する計算基盤

— チューリングは既にAIエンジニア一人当たりのGPU計算資源では日本トップレベルだと思いますが、具体的にどのような計算リソースを活用し、その上でどのような開発を進めていますか?

山本: チューリングは、AIを作るためにAIを作っているのではなく、本当に自動運転という課題を解くために、日々計算を回しています。我々の活動は、データを自分たちで集め、それをモデルを作るための学習プロセスに注ぎ込むことが、ほぼ全てです。

計算機パワーとしては、NVIDIAのH100やH200といった、現代の強力な計算機を活用しています。感覚値として、AIエンジニア一人あたり、約60 GPU(1ノード/8GPUの計算資源を約8ノード分)が配られている状態です。ただ、もちろんこの挑戦には「まだまだ必要」な状態です。笑

特に最近は、単に人間のドライバーの運転を真似る模倣学習だけでなく、高度なシミュレーション環境を活用した学習を行っています。これは、従来のゲーム的なシミュレーションではなく、世界モデルや3D Gaussian Splattingといった、最新の技術を使った環境です。この最先端のシミュレーション環境を使うためにも、大量の計算機パワーが必要となっています。

伊藤: 我々GMOインターネットグループは、そうしたトップエンジニアの方々が「使いやすく、使いたくなる」インフラを提供する側にいます。GPUを大量に用意するだけでなく、チューリングさんのような最先端を走る企業から、フィードバックをいただき、それを製品に活かしていくことが重要だと考えています。

山本: GMOさんの「圧倒的なサポート力」には日々とても感謝しています。これは、本当に「人の部分」が大きい。トラブルは必ず発生しますが、まず構築がちゃんとしていること。そして、トラブルシューティングは24時間体制でしっかり対応してもらえる。これは非常に助かっています。

伊藤: もちろん開発面もありますが、我々がインターネットインフラの分野で長年培ってきた、サーバー運用やクラウド提供の「運用をちゃんと回してきた実績」が、今のGPUサービスに活かされているのなら、非常に嬉しいことです。チューリングさんにそこを評価していただけるのは、まさに今までの自分たちの頑張りを評価していただいているようで、大変誇らしく思います。

完全自動運転の先にある“ヒューマノイド”──テスラの学びとチューリングが描く10年後

山本: チューリングは国内トップレベルのAI技術を持っていますが、世界と比べるとまだ全然という現実があります。我々は「We Overtake Tesla」というミッションを掲げていますが、テスラは既に高いレベルの自動運転を量産車で実現している。

彼らは、車の世界にソフトウェアの考え方をかなり持ち込んでいます。イーロン・マスクは、テスラは単に車を作る会社ではなく、「車を作る工場を作る会社だ」と定義していて、テスラが作るソフトウェアのメインプロダクトは、お客さんの周りに出てくるものではなく、「工場の中で使うソフトウェア」とも言っています。これはまさにその通りで、ソフトウェアファーストの設計ができています。

現代はテクノロジー的に非常に難しく、技術選択が以前よりずっと難しくなっています。その中でイーロン・マスクが正しく技術の波を泳ぎ続けられているのは、新しい技術を深く理解している点に尽きます。彼は車のシートの張力など、非常に細かい製造プロセスまで深く理解している。この細部にまでこだわる深さと全体のバランス感がテスラの強さを生み出す大きな要因の一つとも言えるかもしれません。

— ありがとうございます。最後に、チューリングが目指す10年先の未来についてお聞かせください。完全自動運転の先にある、10年後の「当たり前」をどう作っていくのでしょうか。

山本: 今、AIの世界で最も大きな壁の一つは、「身体性(Embodiment)」、あるいはフィジカルAIと呼ばれる領域です。

純粋な言葉の世界やソフトウェアの世界は、ChatGPT含むLLM(大規模言語モデル)によって相当なレベルに達しました。最近では動画生成まで始めてしまって、あと何ができないんだっけ?というレベル感ですよね。しかし、そのAIが実社会に出てきて、物体を掴んだり自律的に行動したりする身体性を持ったAIの実現は、少しずつできてきているとはいえ、まだ難しい。

自動運転は、まさにこの身体性を持ったAIの典型例です。カメラをメインとしたセンサーを入力とし、単一のニューラルネットワークで処理し、アクチュエーターを制御する。

私の考えでは、ヒューマノイドロボットも自動運転も、最終的にはほぼ同じ技術に行き着くだろうと思っています。そのため、我々は自動運転が一定のレベルに達したら、次はヒューマノイドを作らなければならないと考えています。これは本当に一生の技術になると思います。

内田:テスラがOptimus作ってるのと一緒ですよね。

山本:そうですね。

伊藤: 車は人の命がかかっている部分が非常に大きいからこそ、最高の安全技術を投入し、こだわったものを作らなければなりませんよね。そこまでこだわったものを作れたら、他の領域への展開は非常に早いのではないかと感じています。

山本:我々がまず車を目指した理由は、ビジネスとしてすでに成立している巨大な市場だからです。ロボティクスはまだ市場が立ち上がっていませんが、いずれヒューマノイド市場は立ち上がるので、その時に我々は自動運転で培ったAI側の技術を使って上手に入っていきたいと思っていますね。

内田: 労働人口の減少が言われる中で、ロボットによる代替は必要ですが、安全面とセキュリティが非常に重要になってきます。暴走やエラーが発生した場合、危害を加えるリスクや、ハッキングのリスクも対策しなければなりません。

伊藤: 我々GMOインターネットグループは、グループ内でセキュリティの強化を進めています。我々らしいアプローチとして、安全性とセキュリティが担保されたロボット提供に貢献できる体制を築ければと考えています。

(GMOオフィスにて、自律型AIロボットが会議室まで飲み物を運んでくるシーンも)

伊藤: 我々のGPUクラウドは、世の中のAI進化のインフラとなる部分です。30年前にインターネットインフラが社会の基盤となったように、AIも今後、各産業や各企業が当たり前のようにGPUを使い、サービスを良くしていく基盤になっていきます。

我々は、その将来の基盤となりうるサービスを作るために、今、技術を磨き、新しいチャレンジをしています。チューリングさんにも様々なご指導をいただきながら良いサービスを作っていく。その先に、AIによってより良い社会ができることを願っています。

山本: GMOさんには本当に日々助かっています。人類のグランドチャレンジ”完全自動運転”、そして”We Overtake Tesla”という我々の挑戦を支えるインフラとして、これからもさらなるご支援を期待しています。

伊藤: もっともっと助かるように頑張ります。笑

山本:よろしくお願いします。笑

一同:今日はありがとうございました。

【鼎談概要】
「挑戦し続ける組織」はどう作られるのか──チューリングとGMOインターネットグループ、2つの哲学と10年後の未来
https://www.youtube.com/watch?v=0n0-OxPSMW0